『特別で驚異的な人間』


──ザザッ‼︎

 俺は2人の男の前に立ちはだかった。

「誰だ?」

「お前“ヘッズ”…いや、“テイルズ”か?」

「混合種なんかいるのか?」

「いや、聞いたことないな。」

 “ヘッズ”と“テイルズ”?

 種族か?

 そんなこと、今はどうでもいい。

 とにかくここを退くわけにはいかない。

「もしかしてお前、ソイツを庇ってんのか?」

「だったらどうする?」

「ガチ?俺たちに逆らったら、反逆罪だぜ?」

「反逆罪?」

「あぁ、打首だ。」

 1人の男が首元で親指を横にスライドさせた。

 なんて世界だ。

 困っている者を助けただけで打首?

 イカれてやがる。

「死にたくなけりゃ、さっさと退きな。」

「…俺は退かねぇよ‼︎」

「生意気な…‼︎」

──シュッ‼︎

1人の男が俺に襲いかかってきた。

──ザザッ‼︎

間一髪避けきった。

だが、これは時間の問題だ。

何一つ持ってない俺が勝てるわけがない。

とりあえず、俺と狼で1対1に持ち込めば逃げ切れるだろう。

「狼‼︎さっさと逃げ──」

 振り向いた時には遅かった。

 狼のすぐ側にもう1人の男が迫っていた。

「──マズい…‼︎」

 俺が狼を助けに行こうとした瞬間──

──グサッ‼︎

 ぐはっ‼︎

 俺の右腕に刀が突き刺さった。

「お前の相手は俺だ‼︎」

 俺は跪いた。

 マズいことになったぞ。

 出血が止まらない。

 右腕が使えなくなった今、できることは逃げることだけ──いや、狼を助けないといけない。

 狼の方を振り向くと、俊足を飛ばして男から逃げ切っていた。

 なんだ、逃げ切れたのかと少し安心した。

「くそっ‼︎逃げられた‼︎」

「何やってんだ、バカ野郎‼︎」

「コイツのせいだ‼︎ぶった斬ってやる‼︎」

「いや、政府に持ち帰って拷問処刑だ‼︎」

 ぶった斬る?

拷問処刑?

 …俺はバカなことをしたな。

 なんで死にに行くようなことをしてしまったんだろう。

 狼からしてみれば、俺なんか赤の他人だろ。

 先ほどの勢いはどこへやら、少し後悔してしまった。

 2人が迫ってくる。

どうすればいいんだ?

──ザッ

俺はその場で座り込んでしまった。

 窮地に追い込まれた時、俺は“ある一言”を思い出した。

 

──『一つだけ忠告をしておこう。私はいつでも君の側にいる。わからなくなった時、死に際に追いやられた時、君の“キンタマ”を思い切り殴ってくれ。わかったか?』──

そうだ、“キンタマ”だ。

狼はいない。

俺1人だ。

嫌だ、怖いだなんて言ってられない。

俺が自分で思い切り殴るしかないんだ。

 2人が刀を向けて迫ってきていた。

 俺は咄嗟に握り拳を作った。

 そして──

──キーンッ‼︎

全力で自分の“キンタマ”を殴った。

 全身に今までにないほどの衝撃が走った。

蹲っても耐え切れないほどの腹痛。

涙が滝のように出てきた。

そのまま、俺は気絶してしまった──

──風がなく、程よい気温を肌に感じた。

っていうか──お腹めちゃくちゃ痛い‼︎

痛すぎるっ‼︎

俺は蹲って動けなくなった。

痛すぎてジャンプもできない。

そんな状態が何分も続いた──

──腹痛がおさまった。

目を開け、周りを見渡す。

「ここ、どこだ…?」

 目の形をした2つのテレビ──砂嵐ばかりが流れている。

胃と腸の形をした冷蔵庫──上の穴には口、下の穴は蛇口がついている。

耳の形をしたスピーカー──今は何も聞こえない。

鼻の形をしたアロマディフューザー──白い煙が出ているが、匂いはない。

2つのドア──取手の1つは脳、1つは心臓の形をしている。

何と言おうか。

とにかく、非現実的でカオスな部屋。

──カンッ

 ソファの向こう側から皿をぶつけたような音が聞こえた。

 立ち上がり、音のした方を見る。

 容姿端麗な黒髪ロングの美人がソファで足を組み、優雅にコーヒーを飲んでいた。

「お前、誰だ…?」

──カンッ

女はコーヒーカップを置いた。

「君、殴るの早すぎね。」

 この声、聞いたことがある。

 ──もしかして…‼︎

「お前、あの“仮面の面会者”か…⁉︎」

「“お前”じゃない。私はデ…いや、アウトサイダーだ。」

「アウトサイダー?」

 名前にはあえて触れないでおこう。

 ってか、仮面を外したらこんなに美人だとは思わなかった。

 面会の時に仮面つけてなかったら、マジで話せる自信なかったわ。

「ここはどこなんだ?」

「ここは君の心の部屋だ。今では君と私の共有ルームだな。」

「共有ルーム?」

「君の全ての情報がこの部屋に集約されている。つまり、私がここにいるということは、私が君の体の一部になっているということだ。」

 え、何それ?

 なんかエロくね?

 しかもこんな美人と?

 俺、勝ち組だわ。

 知らず知らずのうちに俺は鼻の下を伸ばして、ニヤニヤしていた。

「何を想像している?」

「い、いや〜何も。」

 アウトサイダーは目の形をしたテレビを見た。

 テレビ画面には日生が最後に見た、2人の男に襲われている瞬間の映像が静止していた。

「とりあえず、今回は私が君を助けてあげよう。」

「助ける?どうやって?」

──ニヤッ

 アウトサイダーは笑った。

「私は“特別”なんだ。これぐらいの相手なら、“存在するだけ”で勝てるよ。」

 は?“存在するだけ”で勝てる?

 そんなこと、漫画の主人公でもなかなかできないぞ?

 俺は懐疑的な顔をした。

「──しっかりと見ておくがいい。君がこの世界にとって、私が君にとって、どれほど驚異的な人間なのかを、ね…‼︎」

 アウトサイダーはコーヒーを一気に飲み干し、そのまま気絶するように眠ってしまった。

一体何が起きるのだろうか。

そう考えているうちに、止まっていた“実物の俺”の時間が動きだし、テレビの映像が動き出した。

なぜだろうか、急に身体が重くなり、目を瞑ってしまった──

──気がつくと、俺は男2人の前で腰が抜けたように尻餅をついていた。

俺は“実物の俺”の身体へと戻ったようだ。

男2人が刀をこちらに向け、切りかかってきた。

俺は避けようとするが──

「ぐっ‼︎」

何故だ?

身体が重い、というよりも金縛りのような感覚に近い気がした。

どう頑張っても動けなかった。

俺は死を覚悟した。

だが──

──ピタッ

「ぐっ‼︎」

「な、なんだ⁉︎」

 何が起こっているんだ?

 男2人が固まってしまった。

 でも口は動くらしい。

 

「て、てめぇ、何をした‼︎」

 「俺にもわかんねぇ。」って言おうと思ったが、口も全く動かせなかった。

 3人とも動けなくなった。

──シュー

風の音が一層大きく聞こえた気がした。


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