ウィンキーの国へ


 ブリキの木こりが戻ってきた。
 とても落ち込んだ顔をしていた。

 「……あんなの、見たことないよ」
 しばらく黙ったあとで、ようやく言った。
 「火を吹くような、恐ろしい野獣だったんだ。毛がもじゃもじゃで、目が五つもあって……」
 言いながらも、まだ震えていた。

 みんな黙って聞いていた。
 誰も笑わなかった。
 私も、ただ黙っていた。

「オズって、姿を変えられるんだな」
 かかしがぽつりとつぶやいた。
 そのとき、ライオンがゆっくり顔を上げた。

「……でも、次は僕の番だろ?」
 目が鋭くなった。

「もし火を吹く獣だったら――僕は、吠えるよ。全力で。驚かせて、願いを叶えさせるんだ」
「もし美しい淑女だったら、ちょっとだけ飛びかかるふりをする。びっくりして、言うこと聞くかもしれない」
「もしあの大きな頭だったら? ……もう、部屋中を転がしてやるよ。絶対に」

 誰も何も言わなかった。
 でも、少しだけ空気が変わった。
 笑ってはいないけれど、少しだけ勇気が戻ってきた気がした。

 翌朝、兵士がライオンを呼びに来た。
 あの緑のひげの人だった。

「ついてきてくれ。オズが待っている」

 ライオンは何も言わずに立ち上がった。
 ゆっくりと歩き、玉座の間の扉をくぐった。

 中は暗かった。
 けれど、すぐに強い光が見えた。
 ……燃えていた。
 玉座の前に、大きな火の玉が浮かんでいた。

 熱気がすごくて、ライオンのひげが少し焦げた。
 思わずあとずさって、扉のそばまで戻っていた。

 そのとき、火の中から低い声がした。

「私はオズ。偉大にして恐ろしい者だ。おまえは誰だ? なぜ私を探す?」

「私はライオンです」
 声は震えていなかった。
 「臆病で、何にでもおびえてしまうんです。だから、勇気をください」
 「勇気さえあれば、百獣の王になれるんです」

「なぜ私がおまえに勇気を与えなければならない?」

「あなたしか、できないからです」

 火の玉がぼうっと揺れた。
 声が続いた。

「西の魔女が死んだら、私はおまえに勇気を与える。
 だが、まだ生きているうちは――おまえは臆病なままだ」

 ライオンは怒った。
 でも、言い返せなかった。
 そのまま黙って、火を見つめていた。

 やがて火は、もっと熱くなった。
 彼は、尾を巻いて部屋を出た。

 私たちが待っていた場所に戻ると、すぐに話してくれた。
 その目は悔しそうだったけれど、泣いてはいなかった。

「どうすればいいの?」
 私は聞いた。
 声が弱かった。

「行くしかない。ウィンキーの国へ」
 ライオンが言った。
 「そして魔女を探し出して、倒す」

「……できなかったら?」

「そしたら、僕は永遠に臆病者のままだ」
 そう言って、真っすぐ私を見た。

「そして、僕は脳を持てないままだ」
 かかしも言った。

「私は心を持てません」
 ブリキの木こりも言った。

「私は……カンザスに帰れない」
 気づいたら、涙がこぼれていた。

「ちょっと! 泣かないで」
 緑の少女が慌てて近づいてきた。
 「そのドレス、絹だから涙でシミができるのよ」

 私はそっと目をぬぐった。
 それから、言った。

「でも、やるしかないと思うの。……会いたいから。エムおばさんに」

「僕も行くよ」
 ライオンが言った。
 「ただ、怖がりすぎて何もできないかもしれないけど」

「僕も行く」
 かかしが続けた。
 「でも、バカだから足手まといになるかもしれないな」

「僕も行きます」
 ブリキの木こりは小さくうなずいた。
 「魔女を傷つけるのは気が進みません。でも、あなたが行くなら、一緒に行きます」

 そうして、私たちは決めた。
 明日の朝、出発する。

 木こりは斧を丁寧に研いだ。
 関節にも油を差した。

 かかしは新しいわらを詰めてもらっていた。
 私は彼の目に、緑の塗料を重ねた。
 もっとよく見えるように。

 緑の少女は、私のかごに食べ物をいっぱい詰めてくれた。
 トトの首には、リボンと小さな鈴をつけてくれた。

 その夜、私たちは早く眠った。
 明け方、緑の鶏の鳴き声で目が覚めた。
 緑の卵を産んだ雌鳥が、ケタケタと笑っていた。


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