ブリキの木こりが、私に言いました。
「お願いだ。オイル缶をかごに入れておいてくれないか」
彼は、少しだけ照れたように笑いました。
「また雨に降られて錆びついたら、それがないと困るからさ」
私はかごを見て、缶を中に入れました。トトがちょっと鼻を鳴らして、木こりの足をくんくん嗅ぎました。油の匂いが気になるらしい。
仲間が増えたのは、なんだか心強かったです。歩き出して間もなく、道が木々に塞がれていて、どうにも先へ進めなくなってしまったのです。
でも、木こりは躊躇いもせずに斧を振り上げました。
カーン、カーン。
枝が飛び、幹が裂けて、あっという間に道が開けました。私たちはそのまま歩き続けることができたのです。
私は何かを一生懸命に考えていました。けれど何を考えていたのかは、もう覚えていません。ふと気づいたとき、かかしの姿が見えませんでした。
足を止めると、かかしの声が道の脇から聞こえました。
「ちょっと助けてくれないかな!」
見れば、彼は穴に落ちて、草の間でばたばたしていました。私は急いで引っ張り上げました。
「なぜ穴の周りを歩かなかったんです?」と木こりが訊きました。
かかしは、まるで叱られている子供のように笑いました。
「まだよくわかってないんだ。僕の頭には藁しか入ってないからね。だから、オズのところに行って脳を分けてもらうつもりなんだ」
「ふむ」と木こりはうなずいて、言いました。
「でもね、頭脳ってのは、必ずしもいちばん良いものじゃない」
「じゃあ、何が一番なんだい?」
かかしが首をかしげました。
「さあ……」木こりは腕を組んでから、静かに言いました。「私は、心のほうが大切だと思う」
「なぜ?」
木こりは、斧の刃を見つめながら言いました。
「話そう。私の昔のことを」
森の中を歩きながら、彼は語りはじめました。
静かな声でした。
「私は、木こりの息子だった。父と同じように木を伐り、その木を売って暮らしていた。父が死んでからは、年老いた母をずっと世話していた。だが、母が亡くなると、私はひとりになった。だから、結婚しようと思った」
彼の話の中に、優しいマンチキンの娘が出てきました。彼はその娘を心から愛し、彼女も、ちゃんとした家が建てられるくらい稼いだら結婚すると言ってくれたそうです。
でも、娘と一緒に暮らしていた老婆が、それをよく思わなかったのです。料理や掃除をしてくれる娘を手放したくなかった。
それで、その老婆は――
「東の悪い魔女のところへ行ったんだ。娘を奪わずにいてくれるなら、羊二頭と牛一頭をやるってな」
私は息をのんで聞いていました。
魔女は木こりの斧に魔法をかけたのです。
そしてある日――
「私はただ、家と彼女を早く手に入れたい一心で、いつもより一層働いていた。すると斧が滑り、左足を……自分の足を、自分で切り落としてしまったんだ」
私は思わず、木こりの足を見ました。冷たくて、つるりとしたブリキの足。
でも、彼はあきらめませんでした。ブリキ職人のところへ行って、足を作ってもらったのです。
「そのうち、また右足を失い、腕を失い、頭を失い、最後には体をまっぷたつにされた」
まるで、切り裂くたびに、誰かの悪意が深くなっていくように思えました。
でも――
「何度も何度も、ブリキ職人が私を直してくれた。私はそのたびに立ち上がった」
彼は、そう言いました。
けれど、立ち上がるたびに、彼の中から何かがこぼれ落ちていったのです。
「最後に体ができたとき、私はもう、彼女を愛してはいなかった。心が――なかったからだ」
私はそっと木こりを見ました。
ブリキでできた胸には、何もありませんでした。穴も、機械も、ただの空っぽな金属。
「今も彼女は、私を待っているだろう。でも、心がなければ愛せない。私は、かつて世界でいちばん幸せな男だった。でも今は違う。だからこそ、オズに心をもらいに行く。それができたら、彼女の元へ戻るんだ」
静かになりました。
風が枝を揺らして、小さく葉がこすれ合いました。
かかしが口を開きました。
「でも僕は、心じゃなくて脳を求めるよ。心があっても、愚かじゃ意味がない」
木こりは、寂しそうに笑いました。
「私は心を選ぶ。頭脳では人は幸せになれない。幸せ――それこそが、いちばん素晴らしいものだ」
私は、黙っていました。
どちらが正しいのか、私にはわからなかったからです。
そして、どちらにせよ私が一番気にしていたのは、かごの中のパンがほとんど残っていないことでした。
私とトトは、生きていくために食べなければなりません。
でも、かかしも木こりも、何も食べませんでした。
私はそっとバスケットのふたを閉じました。
トトの小さな舌が、パンの匂いを追っていました。