交差点は大きく波打ち
飛沫が涼しげなワンピースにアスファルトの弾痕をつける
真夏の交差点は飛び込みできる柔らかさ
スーツ以外でこの交差点に入るのは初めて
決まった速度と歩幅で
2kmを雨の日も雪の日もデモの日も
脇目も振らず毎日空虚な行軍だったから
今日は 平時なら正面にある巨大なモニターを初めて右手に見た
信号が点滅し、追い出される歩行者と淵に溜まる歩行者も初めて見た そして 交差点には少し傾斜がついていた。
「あなたのこと何にも知らなかったな あなたは美しいオクタゴンで白線は東側から中心に向かって渦巻きになっいる あなたへ通じる四方の道から沢山の人が尿の飛沫の付いた靴あなたを踏みつける なんて酷い」
「わたしは靴を脱ぎます あなたに直に触れていたいし、コイツらと同じではないのです」
群衆の中に身を置き自己を喪失つもりが、あなたの美しさ知るただ一人として自己存在を認識する
日が陰りはじめ 染谷ビルの屋上から交差点を見下ろす
オクタゴンから伸びた路地がカタツムリように見える
「かぎゅうかくじょうのあらそい か」
封書は私の帰りを待っていた
封書は私を見ていた
私はすぐに目を外し、浴室へ向かった
軟化したアスファルトが足の裏を真っ黒にしている
アスファルトの上を歩くことは想定されていない人類の膝関節はダメージを受けていたが、裸足は本能を刺激してくれた
常日頃から冷めた目で社会を見て、浅はかなカッコだけ括弧付きの勘違いニヒリストを決めていたが、今日のあの時間は普段ならあってはならない熱量を帯びていた。
シャワーの流水に剥がされたアスファルトの汚れが排水口に回転しながらカタツムリの渦のように飲み込まれていく 一緒に飲み込まれて行く 細かなチリは人のようだ。
バスタオルで水滴を拭きながらキッチンに向かい冷蔵庫から缶ビールを取り出して片手でプルタブを開けようとしたが、缶の重心が手前にズレてこぼれ
飛沫がへそを伝い局部が濡れる キッチンにビールの泡が広がり、慌ててバスタオルで拭いた。
「ハハ」
笑い声? 顔を上げ聞こえた方向には
テーブルに置かれた封書がある
完全には拭ききれてない手で封書を手にする
水分が吸収され封書は簡単にちぎれた。
中にはコンサートチケットのような物が2枚
「 1回 あ列 16番 」
「 2回 あ列 16番 」
と印字されている
すぐに画像検索をしたが、出てくるのは日本武道館や横浜アリーナなど一般販売されているコンサートチケットのみだ。
裸のまま2時間経って
疲労が緊張感の糸を切り 虚ろになった視覚には
「 1回 あ列 16番 」
「 2回 あ列 16番 」
の文字がたゆたって見えている。