午后の授業


 「ではみなさん。川だとか、乳の流れだとか言われている、このぼんやり白いものが、本当は何なのか、ご存じですか。」

 先生は、黒い星図に白く煙った銀河帯を指しながら、そう問いかけた。

 カムパネルラがすっと手を挙げた。

 それにつられるように、何人かの手が続いた。

 自分も、思わず手を挙げかけた。けれど、その途中で、そっとやめた。

 ――あれが星の集まりだって、前に雑誌で読んだはずだ。

 けれど、最近の自分は、なんだか何もよくわからない。

 教室にいても、眠たいだけだった。

 本を読む時間もないし、読む本もない。

 頭の中がいつも霞んでいるようで、考えるのも億劫だった。

 そのとき、先生の声が自分を指名した。

 「ジョバンニさん。あなたは、わかっているのでしょう?」

 びっくりして立ち上がったが、口が動かなかった。

 答えが、するりと逃げてしまった。

 前の席で、ザネリがこちらを振り返って、くすりと笑った。

 その笑いが、自分の頬に火を点けた。

 「大きな望遠鏡で銀河をよく調べると、銀河は――何でしょう?」

 先生が、もう一度尋ねた。

 やっぱり星だ、そう思ったのに、声にならなかった。

 喉の奥が、つまってしまったみたいだった。

 先生は少し困ったような顔をして、それからカムパネルラの方へ目をやった。

 「では、カムパネルラさん。」

 さっき元気に手を挙げていたカムパネルラも、黙ったまま立ち上がった。

 答えられなかった。

 先生は、少し意外そうに彼を見つめていたが、やがて星図を指さして言った。

 「この白い銀河を、大きな望遠鏡でのぞくと、無数の小さな星が見えるのです。ジョバンニさん、そうでしょう?」

 自分はうなずいた。けれどその瞬間、なぜだか涙があふれそうになった。

 ――そうだ、自分は知っていた。

 カムパネルラだって、知らないはずはなかった。

 あれは、カムパネルラのお父さんの書斎で、一緒に読んだ雑誌にあった。

 それどころか、カムパネルラはその雑誌を読むとすぐに、大きな本を持ってきて、「銀河」のページをひらいた。

 黒い頁には、白い星が無数に写っていて、ふたりで、じっと見つめた。

 忘れるはずがないのに、彼は、あえて答えなかったのだ。

 ――最近の自分が、朝も午後も仕事ばかりで、カムパネルラとも口数が減っていた。

 だから、カムパネルラはそれを知っていて、気の毒に思って、わざと黙っていてくれたのだ。

 そう思うと、自分も、カムパネルラも、なんだかひどく哀れに思えてきた。

 先生の声が、ふたたび聞こえた。

 「ですから、もしも天の川を本当に川だと考えるなら、それぞれの星は川底の砂や砂利に当たるのです。あるいは、それを乳の流れとすれば、その星は、乳のなかに浮かぶ脂の粒――つまり、私たちはその中に生きているのです。」

 先生は、砂の粒が詰まったレンズを示した。

 「この天の川の模型を見てください。この光る粒ひとつひとつが、それぞれ自分で光っている星です。そして私たちの太陽もそのひとつであり、地球はそのそばにあるとします。」

 夜、私たちがこのレンズの中心に立って空を見まわす。

 レンズが薄い方向には、星が少なく見え、厚い方向には、無数の星が白く霞んで見える。

 それが、いまの銀河の説なのです――と先生は結んだ。

 「レンズの大きさや、星の種類については、次の時間に話しましょう。

 今夜は銀河のお祭りなのですから、外に出て、空をよく見てきなさい。」

 その言葉で、教室中がざわめいた。

 机のふたが開いたり閉じたりする音、本を重ねる音がひびいた。

 やがて、全員が立ちあがって、先生に礼をした。

 そして、子どもたちは列をなして、外へ出ていった。


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