彼にとって最大の挑戦だったはずの全国高校総合文化祭での結果は,優秀賞という形で一旦幕を閉じた。
彼の描いた作品は自画像だった。しかし,純白のキャンバスを埋め尽くすほどの赤,黄,青,紫,そして黒が万遍に塗られたその絵は,自画像というよりも抽象画に近かった。
いつものような透明感は微塵も漂ってこず,ただ視覚に訴えかけるだけを目的とした殴り書きのようにも思えた。まるで私の絵を真似ているかのような。
そして何よりも,その絵に写っているまゆは,酷く女性的だった。
派手派手しい色の水彩絵具で形づけられた顔はえらく曲線を描いていて,髪も本来のまゆの長さよりも伸びている。
まゆの実力はこんなものではないはずだと,私はなんだか無性に悔しい気持ちになった。最優秀賞が取れなかったことではなく,彼の持ち味を一つも活かすことなく,高校での最後の美術活動が終わったことに対して。
「みのり,後で一緒に記念写真とろ」
若々しいそよ風に吹かれたまゆの横髪が,彼の性別が女性であることを強調させる。
そうか,今日でもう卒業なのかと,今になって思い始めた。
「まゆ,ほんとに東京行くんだ」
「うん,そうだよ。アーティストになって生活したいから,東京の専門学校通うことにした。前に言わなかったっけ?」
私が男だったら,このタイミングで思い切って告白していただろうか。
入学してすぐに美術部に入ってまゆと出会ってから卒業するまで,私たちは結局友達のままだった。
どれだけ仲良くなって互いのことを知っていったとしても,自分の胸中を一つも打ち明けることなく別れていくのは,大きな悔いしか残らない。彼が高校最後の作品で,普段のものとは全く異なる絵を描いた理由も分からなかった。
「東京行ったら忙しくなるだろうけど,たまには会って遊ぼうね」
私はずっと抱いていた好意を打ち明ける気持ちで,そう口約束をしてツーショット写真を撮った。
相変わらずまゆの顔は中性的で,永遠に崩れることのない美貌を保っているようだった。