見えない姿


 朝になると、あの緑のひげの兵士が、かかしのところにやって来た。

「オズがお呼びです。一緒に来てください」

 かかしは、わらの体をぎこちなく揺らしながら立ち上がった。
 そして、兵士のあとをついて、玉座の間へと入っていった。

 部屋の中には、ひとりの美しい女性がいた。
 緑の絹をまとい、髪は長く波打つ緑色。
 額には宝石の冠。
 そして、肩には、風が吹けばふわりと動く色とりどりの羽――。

 かかしは驚きながらも、お辞儀をした。
 できる限り、礼儀正しく。

「私はオズ。偉大で、恐ろしい者だ」
 女性の声は、優しく響いた。
「おまえは誰だ? なぜ私を訪ねてきた?」

 かかしは戸惑った。
 ドロシーの話では、大きな頭がいるはずだったから。

 けれど、逃げはしなかった。
 その場に立ち、答えた。

「私は案山子です。頭には藁しか詰まっていません」
「だから、脳みそがほしいのです。そうすれば人間のように考えられる。どうか、藁のかわりに、知恵をください」

 オズはしばらく黙っていた。
 そして、静かに言った。

「なぜ、私がそれをしてあげなくてはならないの?」

「あなたには力があるからです」
 かかしはまっすぐに見つめ返した。
「他の誰にも、できないことです」

「私は、代償なくして何も与えない」
 オズはきっぱり言った。
「だが、こう約束しよう。もしおまえが西の魔女を倒せば――」
「そのときは、脳を与えよう。しかも、この国で一番賢い男になれるようなものを」

 かかしは目を丸くした。

「ドロシーにも、そう言ったんですか?」

「言った」
 オズはうなずいた。
「誰が倒してもいい。だが、魔女が生きているうちは、誰にも望みは叶えない」

「……わかりました」

 かかしはしょんぼりと仲間のもとへ戻った。
 オズが美しい女性だったと話すと、ドロシーは驚いた顔をした。

「ねえ」
 かかしはぼんやりつぶやいた。
「あの人も、木こりと同じで、心がほしいのかもしれないね」

 次の日、また兵士がやって来た。
 今度は、ブリキの木こりの番だった。

「オズが呼んでいる。ついて来なさい」

 木こりは立ち上がった。
 少しだけ、どきどきしていた。
 彼の胸には心がなかったけれど、どこか落ち着かない気持ちだった。

「どうか、女性であってほしい……」
 そう思いながら、玉座の間に入っていった。

 だが、そこにいたのは女性でも、頭でもなかった。

 大きな野獣。
 ゾウよりも大きな体。
 顔には五つの目。
 体には五本の腕と、五本の脚。
 全身をおおう、濃い緑の毛。
 まるで夢に出てくるような恐ろしい姿だった。

 けれど、木こりは震えなかった。
 彼には心がなかったから。

「私はオズ。偉大で、恐ろしい者だ」
 野獣の声が響いた。
「おまえは誰だ? なぜ私を探す?」

「私は木こり。ブリキでできています」
 木こりはまっすぐ前を見て答えた。
「心がないから、愛することができない。どうか、心をください」

「なぜ、そんなことを頼む?」

「それが、私の望みだからです」
「そして、あなたにしかできないから」

 野獣はうなり声をあげた。

「もし心がほしいなら、手に入れるしかない」

「どうすれば?」

「ドロシーと一緒に、西の魔女を倒してこい」
「彼女が死ねば、私は心を授けよう」
「この国で一番、あたたかくて、やさしい心を」

 木こりは黙ってうなずいた。

 そして、静かにその部屋を出ていった。


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