翌朝、かかしが私たちを見てにこりと笑った。
「おめでとう。ついにオズの国に行って、脳みそを手に入れるんだ。戻ってきたら、人間みたいになってるよ」
私の胸が、ちくりとした。
「私はね、あなたのそのままが好きだったのに」
そう言うと、かかしは少しだけ照れたように頭を傾けた。
「ありがとう。そう言ってもらえて、うれしい。でも、新しい頭で生まれるすばらしい考えを聞いたら、君はもっと僕のことが好きになるはずだよ」
そう言って彼は明るい声でみんなに別れを告げ、玉座の間へ歩いていった。私はその背中を、黙って見送った。
重たいドアの前で、彼はノックした。
「入って」
中から聞こえたオズの声は、いつもより静かだった。
かかしが中に入ると、窓のそばに腰をかけて何かを深く考え込んでいる小さな男の姿が見えた。私は扉の外でじっと立っていたけれど、様子はよくわかった。
「僕は、自分の頭脳をもらいに来ました」
その声は、少しだけ不安そうに震えていた。
「わかりました。あの椅子に座ってください」
オズはそう言った。
「頭を外すのは申し訳ない。でも、脳を正しい場所に入れるには、それしか方法がないんです」
「かまいません」
かかしが答えるのが聞こえた。
「私の頭を切ってもいいです。ただし、かぶり直したときに、前よりいい頭になっているのならね」
魔法使いはうなずいた。かかしの頭をそっと外し、中に詰まっていたわらを出していく。その手つきは慎重で、少しも乱暴ではなかった。
オズは奥の部屋へ入り、ふすまのようなものをひとかけら取り出した。さらに針をたくさん、両手いっぱいにすくってきた。それらをよく混ぜ、かかしの頭の中へ、丁寧に詰め込んでいく。残りの隙間には、もとのわらが押し込まれた。
彼は頭を元の場所に戻すと、しっかりと胴体に固定した。
「これで終わりです。あなたは偉大な人物になるでしょう。新しい頭脳を、私はたっぷり差し上げました」
オズの言葉に、かかしは胸を張って感謝を伝え、私たちのところへ戻ってきた。
私はかかしの顔をじっと見つめた。膨らんだその頭が、ちょっとだけ重たそうに見えた。
「気分はどう?」
私の問いかけに、彼は真剣な顔で答えた。
「うん。確かに、賢くなった気がする。これに慣れれば、何でもわかるようになると思うよ」
そのとき、ブリキの木こりが眉をひそめた。
「頭から針やピンが飛び出してるけど……どうして?」
「それは、彼が賢くなった証拠さ」
ライオンが代わりに答えた。いつになく自信たっぷりな声だった。
「さて、次は私の番だね」
木こりがそう言って、ゆっくりと玉座の間へ向かって歩き出した。ノックの音がまた響く。
「さあ、お入りなさい」
オズの声が再び響いた。
「私は、心をもらいに来たんです」
木こりの声は、真っ直ぐだった。
「わかりました。でも、心臓を正しい場所に置くには、胸に穴を開けなければいけません。痛まなければいいのですが」
「いいえ、痛みは感じません。私はブリキですから」
オズは鋏を取り出し、木こりの胸の左側に、小さな四角い穴を開けた。私は見ていられず、少し目を伏せた。
彼は箪笥の引き出しから、小さな絹のハートを取り出した。中にはおがくずが詰まっていて、やさしさがぎゅっと込められているように見えた。
「これ、美しいでしょう?」
「うん、本当に美しい! でも、それはやさしい心なの?」
「もちろんです」
そう言ってオズはハートを木こりの胸に入れ、開けた穴をきれいにはんだ付けしてふさぎ直した。
「これで、どんな男でも誇りに思うような心を手に入れましたよ。胸に当て布を貼らなければならなかったのは残念ですが、仕方ありませんね」
「かまいません!」
木こりは声を弾ませた。
「本当にありがとう。あなたのやさしさは一生忘れません!」
「そのことは、どうか言わないでください」
オズの声は、どこか照れているようだった。
木こりが戻ってくると、私たちは心から祝福した。
最後に、ライオンがゆっくりと玉座の間へ歩いていった。ドアをノックする音は、どこか震えていたけれど、彼はもう臆病には見えなかった。
「入って」
扉の向こうから、オズの声がした。
「私は、勇気をもらいに来ました」
ライオンは堂々と部屋へ入っていく。
「わかりました。持ってきますね」
オズは棚の上の緑の瓶を取り、それを彫刻のある緑金の皿へ注いだ。それをライオンの前に置いたとき、彼は少しだけ顔をしかめた。
「飲んでください」
オズが言った。
「これは……何です?」
「もし君の心にあったなら、それは“勇気”です。けれど、飲み込むまではそれにならない。だから、すぐに飲んでしまうのがいいでしょう」
ライオンはうなずくと、一気にそれを飲み干した。
「今の気分は?」
「勇気に満ちているよ!」
ライオンの声は、はっきりしていた。そのまま振り返り、私たちのもとへ嬉しそうに戻ってきた。
その頃、オズはひとり、静かに椅子に座っていた。
かかし、木こり、ライオンにそれぞれが望んでいたものを与えたことを思い出して、ふっと笑った。
「誰もが、できないとわかっていることを、私に求めてくる。だから、私はペテン師にならざるを得ないんだ。けれど、あの三人を喜ばせるのは簡単だった。彼らは私のことを、何でもできると信じてくれていた。でも、ドロシーをカンザスへ帰すには……空想だけでは、どうにもならない。どうすればいいのか、今の私には、まだわからない」