YouTubeで流れてきたのは,「SNSで大反響!天才新人大学生の才能発掘!」というタイトルの動画だった。そのサムネイルには,左耳にシルバーのフープピアスをつけたまゆが,涼しげな笑みを浮かべて映っていた。
反射的に画面をタップし,驚きを覚えながら食い入るように動画を視聴した。
「インスタグラムのフォロワー数は10万人を超え,今ネットで反響を呼んでいる大学生アーティスト,久遠真優さんにお越しいただきました。よろしくお願いします」
スマホの画面越しでも伝わる彼の美しさに,思わず笑みが溢れたが,なによりも中性的な雰囲気が変わっていないことに安堵した。
高校を卒業して,私は地元のアパレル店に就職した。
まゆと離れて以来,すっかり絵を描くことはなくなり,休みの日はスマホをスクロールすることに命を捧げる自堕落な人間に成り下がった。そのため,まゆが今ネットで有名になっていることも当然のように知っている。
だが,ついにまゆもYouTubeで,しかも大手テレビ局のエンタメチャンネルで取り上げられるとは。自分のことのように誇らしい気持ちになった。それは純粋な,恋い慕っていた人の才能と努力が,世間に認知されたことを喜ぶ感情から来るものだった。
「私が絵を描き始めたきっかけというのは,多分これといったのはないと思うんですよね。気づいたら描くのが習慣化してたというか。ずっと自分の好きなもの,猫とか犬とかをよく描いてたんですが,高校三年生の時に賞に出した作品だけは全く違うものを描いて。まあ,理由としてはいろいろあったんですが,その一つとして『自分の苦手な描き方で作った絵を認められたら,それこそ本物だ』っていうものがありましたね。自分の才能や技術,足りないものはないと信じています。ただ,あえて不得意な分野で挑戦したことが,成長につながったらいいなと思ったからですね」
私が絵を描かなくなった一番の理由は,まゆへの執着を捨てることにあった。絵に向き合い続ける限り,まゆの美しすぎる輝きがキャンバスを覆いつくして,目が開けられなくなるから。
「とにかく,私はまだ成長中ですし,私の絵を認めてくれた全ての方に感謝したいです」
おもむろにベッドから起き上がり,コピー用紙とシャーペンを手に取り,まゆの顔を書き出してみた。
私が彼に敵うことはないだろうなと痛感した。