ドアの前に立つと、人々はぱたりと足を止め、ひそひそと囁きあった。何かを怖れているみたいだった。けれど、小柄な老婆が一歩踏み出し、深く頭を下げた。その声は静かで優しく響いた。
「高貴なる魔女よ、マンチキンの国へようこそ。東の悪い魔女を倒し、私たちの民を束縛から解放してくださったことに、心から感謝いたします。」
その言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。なぜ私を魔法使いと呼ぶのだろう。東の悪い魔女を殺した?それは間違いだ。私はただ、竜巻に連れてこられただけの無垢な少女。何も殺してなどいない。
老婆は私の返事を待っている。声を震わせて答えた。
「ありがとうございます。でも、きっと誤解です。私は何も殺していません。」
老婆は穏やかに笑い、家の角を指さした。
「あなたの家はそうだったわよ。ほら、あの木の板の下から、銀色の尖った靴が見えるでしょう?」
私は目を凝らした。そこには確かに、家を支える梁の下から二本の足が覗いていた。息が詰まるような気がした。
「家が彼女の上に倒れたのね……どうしたらいいの?」
老婆は静かに言った。
「何もできないわ。」
私は問い続けた。
「でも、彼女は誰?」
「東の悪い魔女よ。長年マンチキンたちを奴隷のように縛り、昼も夜も苦しめたの。今はあなたのおかげで、みんな自由になった。」
「マンチキンって?」
「この東の国に住む人々よ。」
「あなたはマンチキン?」
「いいえ、私は北の魔女。彼らの友人よ。知らせを受けて駆けつけたの。」
私は息をのんだ。
「本当に魔女?」
「ええ。良い魔女よ。みんなに愛されている。悪い魔女ほどの力はないけれど、いなければ助けられなかった。」
私は小さく言った。
「魔女はみんな悪いと思ってたのに。」
老婆は首を振った。
「違うわ。オズの国には四人の魔女。北と南は良い魔女。東と西は悪い魔女。あなたが東を倒したから、今は西だけ。」
私は考え込みながら言った。
「エムおばさんは、魔女はもう死んだって言ってた。」
老婆は不思議そうに聞いた。
「エムおばさん?」
「カンザスにいる私の叔母よ。」
老婆は顔を伏せて考え込んだ。やがて顔を上げて言った。
「カンザスは知らない。でも文明国なのね?」
「ええ。」
「納得ね。文明国には魔女も魔法使いもいない。でもここは違う。オズの国は隔絶されているから、魔女も魔法使いもまだいる。」
私は尋ねた。
「魔法使いって?」
老婆は声をひそめて答えた。
「オズよ。偉大な魔法使い。私たち全員よりも強い。エメラルドの都に住んでいる。」