「ぼくが思いつくかぎり、いまはないよ」
ブリキの木こりが静かに言った。
でも、考えようとするたびに、わらがごそごそと音を立てるかかしが、すぐに声をあげた。
「――ああ、あるよ」
「ケシの花のベッドで寝ている、ぼくらの友達。臆病なライオンを助ける方法だ」
「ライオン!?」
小さな女王が、思わず叫んだ。
「それって……あの、私たちを丸呑みにするような?」
「ちがうよ」
かかしが慌てて首を振った。
「このライオンは――とても臆病なんだ。誰も傷つけたりしない」
「ほんとに?」
ネズミたちの目が丸くなった。
「本人が、そう言ってたんだよ」
「それに、もし君たちが手伝ってくれたら、きっと彼は優しくするって約束するよ。君たちみんなに」
女王は、じっとかかしの顔を見つめた。
それから、きっぱりと頷いた。
「わかったわ。信じてみる。けど……どうやって?」
「あなたに従っているネズミは、たくさんいるのですか?」
「ええ、何千人も」
「なら、そのみんなに長い紐を持たせて、ここに集めてください」
女王はうなずき、すぐに従者たちに命じた。
ネズミたちは一斉に散っていった。
野原の奥へ、土のトンネルへ、草の陰へ。
かかしはブリキの木こりの方を振り返った。
「さあ、荷車を作らなきゃ。ライオンを乗せられるような」
木こりはすぐに立ち上がり、川辺の木々へ向かった。
太い枝を落とし、幹を短く切り、斧の音が乾いた空に響いた。
すぐに四つの丸い車輪ができて、それをしっかりと板に固定した。
仕事が終わるころには、野ネズミたちが戻ってきていた。
小さな足音が、あちこちから聞こえてきた。
それぞれの口には、長い紐。
大きなネズミも、ちいさなネズミも、全部で何千も。
野原が、まるで動くじゅうたんのようだった。
ちょうどそのとき。
ドロシーが目を覚ました。
まぶたがふるえ、視界が開ける。
――ネズミ。
あたりがネズミでいっぱいで、思わず身体を起こしかけた。
「だいじょうぶ」
かかしが、ゆっくりと近づいてきて説明してくれた。
それから、小さなネズミの女王のほうを向いた。
「こちらが、女王陛下です」
ドロシーはおそるおそるうなずいた。
女王も丁寧に頭を下げた。
どこか誇らしげで、やさしい目をしていた。
それからふたりは、すぐに打ち解けた。
ドロシーはその日、小さな友達を得たのだった。
かかしと木こりは、ネズミたちの持ってきた紐を使って作業を始めた。
一匹ずつ、首に紐を結び、それを荷車に結びつけた。
もちろん、荷車はネズミたちの何百倍も大きかった。
でも、何千匹という仲間が力を合わせると、車輪はすこしずつ動き始めた。
かかしと木こりも荷車に乗り、
ちいさな馬たちに引かれて、ケシの花の中を通っていった。
ライオンは、重たかった。
けれど、なんとか持ち上げて荷車に乗せると、女王はすぐに出発の合図を出した。
ケシの香りがネズミたちにも危ないかもしれない――そう思ったからだった。
最初はびくともしなかった。
でも、木こりとかかしが後ろから押したら、車輪はしずかに回りはじめた。
ライオンはゆっくりと運ばれ、
やがて、ケシの花が終わるところ――緑の草の上にたどり着いた。
ドロシーもすぐに駆け寄った。
眠るライオンのそばに座り、ネズミたちに深く頭を下げた。
「ありがとう。本当に……ありがとう」
大きな目には涙がにじんでいた。
それからネズミたちは、順に紐を外してもらい、草の中へと戻っていった。
最後に残ったのは、女王だった。
「また何かあったら――野原に出て、呼んでちょうだい」
「声が聞こえたら、私たちは駆けつけるから。……さようなら」
「さようなら!」
みんなが声を合わせた。
トトが追いかけそうになるのを、ドロシーはしっかりと抱きしめて止めていた。
そのあと、みんなはライオンのそばに座った。
かかしは近くの木に登って果物を取ってきた。
ドロシーはそれを夕食にした。
空はすこしずつ、オレンジ色に染まりはじめていた。