第二の手記 11

 侘びしい。 自分には、女の千万言の身の上噺よりも。 その、一言の呟きのほうに、共感をそそられるに違いないと、期待しておりました。  けれども、この世の中の女から。 ついにいちども、自分はその言葉を聞いた事がない。 それ … 続きを読む

第二の手記 10

 同じ頃また自分は、銀座の或る大カフエの女給から、思いがけぬ恩を受けました。 たった一度、逢っただけなのに。 それでも、その恩にこだわり、やはり身動き出来ないほどの、心配やら、空おそろしさを感じていたのでした。  その頃 … 続きを読む

第二の手記 9

 そのころ、自分に特別の好意を寄せている女が、三人ほどいました。  ひとりは、自分の下宿している仙遊館の娘でした。  この娘は、自分がれいの運動の手伝いでへとへとになって帰り、ごはんも食べずにそのまま寝てしまってから、か … 続きを読む

魔女たちの国

 ドアの前に立つと、人々はぱたりと足を止め、ひそひそと囁きあった。何かを怖れているみたいだった。けれど、小柄な老婆が一歩踏み出し、深く頭を下げた。その声は静かで優しく響いた。 「高貴なる魔女よ、マンチキンの国へようこそ。 … 続きを読む

知られざる訪問者

 何かが、私を強く引っ張った。 息が止まるかと思った。目が覚めたとき、まだ夢の中にいる気がして、しばらく動けなかった。  トトの鼻先が、私の頬に触れた。冷たくて、湿っていて、それが現実だった。 私は、やっと息をした。   … 続きを読む

竜巻

 わたしの家は、カンザスの広い草原のただなかにある。 叔父のヘンリーと叔母のエムと三人で暮らしている。 家は小さくて、たった一部屋だけ。 古びたストーブやテーブル、椅子が並んでいて、わたしはその隅っこに小さなベッドをもら … 続きを読む

第二の手記 8

 日蔭者という言葉があります。 人間の世に於いて、みじめな敗者、あるいは悪徳者を、指差して言う語のようですが―― 自分は、まるで、生れたときからの、日蔭者であるような気がしておりました。 ですから、世間から「日蔭者だ」と … 続きを読む

第二の手記 7

 淫売婦というものが、自分には、どうしても人間に見えなかった。 女でもなかった。 白痴のように。 あるいは、発狂した生きもののようにしか見えなかった。 けれども、その懐の中では、かえって、まったく安んじることができました … 続きを読む

第二の手記 6

 美術学校に、はいりたかったのです。  けれど、それは、自分の胸の中で、  ただ、ひそやかに燃えていた希望に過ぎず、  声にして言ったことも、ありませんでした。  父が、許さなかったのです。  父は、自分を官吏にしたいと … 続きを読む

第二の手記 5

 けれども、まだ、その時点では――  竹一の口から出た「惚れられる」というお世辞は、まったく実現しておりませんでした。  つまり、自分は。  東北のハロルド・ロイド、でしかなかったのでした。  あの戯けた予言が、ぞっとす … 続きを読む