天気輪の柱

 牧場のうしろは、なだらかな丘へとつづいていた。 その黒く平たい頂には、大熊星がかかっていた。 ふだんよりも低く、ぼんやりと連なって見える。  ジョバンニは、露に濡れた小さな林のこみちを登っていく。 くらがりの草むら、形 … 続きを読む

銀河ステーション

 背後にあった天気輪の柱が、いつしか三角標のかたちを取りはじめた。 それは蛍のように、かすかに明滅をくりかえし、やがて確かな姿を見せる。 青鋼のような空の野に、静かに立っていた。  そのとき、どこからともなく声が降る。「 … 続きを読む

第三の手記 13

 堀木が、平然とそう言いました。  自分は、ふたたび堀木の顔を見直しました。  近くのビルの明滅するネオンサインの赤い光が、堀木の頬に射していました。  その顔は、鬼刑事のように見えました。  威厳を帯びていました。   … 続きを読む

第三の手記 14

 自分の部屋の上の小窓が、開いていました。 そこから、部屋の中が見えました。電気は点いたまま、ふたつの影がうごめいていました。  自分は、ぐらぐらと目まいがしていました。 ――これもまた、人間の姿。これもまた、人間の姿。 … 続きを読む

鼠の恩返し

 「もう、黄色い道からそんなに離れていないと思うんだ」 かかしが、眠るドロシーのそばに立って言った。「川に流された場所のあたりまで、たぶん来てるはずだよ」  そのときだった。 ブリキの木こりが何か言おうとした瞬間、低いう … 続きを読む

草の上の再会

 「ぼくが思いつくかぎり、いまはないよ」 ブリキの木こりが静かに言った。  でも、考えようとするたびに、わらがごそごそと音を立てるかかしが、すぐに声をあげた。 「――ああ、あるよ」「ケシの花のベッドで寝ている、ぼくらの友 … 続きを読む

第三の手記 12

 「いいかい? 煙草は?」  と自分は、首を傾けてたずねました。  「トラ。」  と堀木は、即座に答えました。悲劇――トラジディの略です。  「薬は?」  「粉か? 丸薬か?」  「注射。」  「トラ。」  「そうかな。 … 続きを読む

第三の手記 11

 堀木と自分。  互いに軽蔑しあいながら付き合って、そうして、おのおのをくだらなくしてゆく。 もし、それがこの世に於ける所謂――交友、というものの実相であるならば、 自分と堀木との交情も、まさしくその「交友」の範疇に属し … 続きを読む

ケシの花の眠り

 「私、ドロシーっていうの」  そう言いながら、私は二人の仲間を順に見た。  「それで、こちらがブリキの木こり。こっちは臆病なライオン。今、私たち、エメラルドの都へ行くところなの」  コウノトリは首をかしげた。あきらかに … 続きを読む

流されて、離れて、なお──

 朝の空気はひんやりして、なのに胸の奥が明るかった。 目を覚ましたとき、体は軽く、目に映る世界はすべて柔らかく輝いて見えた。  私は桃とプラムをひとつずつ摘んだ。昨夜、木のそばで見つけたやつ。 それを少しだけ、ゆっくりと … 続きを読む