ケンタウル祭の夜 2025年9月21日2025年7月9日 by NMz 口笛に似た、寂しげな吐息のような調子で、ジョバンニは坂を下っていた。 檜の板が黒く並ぶ町の道。かすかに光を吸って、沈黙のように連なっていた。 坂の下に、街燈がひとつ、青白く澄んだ光をたたえて立っていた。 歩くたびに、 … 続きを読む
家 2025年9月21日2025年7月9日 by NMz ジョバンニが帰ってきたのは、裏町の小さな家だった。 三つ並んだ入口の、いちばん左。 その前には、空き箱に植えられた紫色のケールとアスパラガスがあった。 小さな窓には、日覆いが下りたまま。 光も影も、しずかに止まってい … 続きを読む
活版所 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz 校門を出ると、桜の木の下に輪ができていた。 カムパネルラを囲んで、七、八人の同級生が肩を寄せ合っていた。 灯籠の青い灯りを流すために、川へ烏瓜を取りに行く相談をしているらしかった。 けれど、ジョバンニは立ち止まらなか … 続きを読む
午后の授業 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz 「ではみなさん。川だとか、乳の流れだとか言われている、このぼんやり白いものが、本当は何なのか、ご存じですか。」 先生は、黒い星図に白く煙った銀河帯を指しながら、そう問いかけた。 カムパネルラがすっと手を挙げた。 … 続きを読む
第三の手記 10 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz バアの向いに、小さい煙草屋がありました。 その店の、十七、八の娘でした。 ヨシちゃんと言いました。 色が白く、八重歯がありました。 自分が煙草を買いに行くたびに、笑いながら注意するのです。 「なぜ、いけないんだ。どう … 続きを読む
第三の手記 9 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz そうは申せ、やはり人間というものが、まだまだ自分にはこわろしかったのです。 お店のお客と顔を合わせるにも、まずコップ一杯の酒をぐいとあおってからでなければ、どうにも腰が上がりませんでした。 こわいもの見たさ、というの … 続きを読む
恐ろしい獣 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz 「カリダって何?」 思わず聞き返した。自分でも声が震えていた。 ライオンが低く唸るように言った。 「熊みたいな体に、虎のような頭を持った怪物だ。爪は鋭く長くて……私を真っ二つに裂くのなんて、トトを踏み潰すのと同じ … 続きを読む
大きな溝 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz その夜、私たちは森の中で眠ることにした。 まわりに家は見あたらない。 探すのもやめて、静かな木の下に落ち着く。 枝は高くて広く、葉が私たちを覆ってくれた。 露は落ちてこなかった。 葉が屋根のように、雨の気配を遮ってく … 続きを読む
第三の手記 8 2025年9月21日2025年7月7日 by NMz ドアを、ほんの少しだけ開けて、中をのぞいて見ました。 白兎の子が、いました。 ぴょんぴょんと跳ねまわっていました。狭い部屋の中を、くるくる、輪を描くように。親子は、それを追っていました。楽しそうに。静かに。幸福そう … 続きを読む
第三の手記 7 2025年9月21日2025年7月7日 by NMz けれども、その時以来、自分は妙な考えを持つようになりました。 世間とは、個人ではないか。 つまり、自分のような人間の、ただの寄せ集めではないのかと。 そう思うようになったのです。 そして、それを思いはじめてから、自 … 続きを読む