第三の手記 14 2025年9月21日2025年7月10日 by NMz 自分の部屋の上の小窓が、開いていました。 そこから、部屋の中が見えました。電気は点いたまま、ふたつの影がうごめいていました。 自分は、ぐらぐらと目まいがしていました。 ――これもまた、人間の姿。これもまた、人間の姿。 … 続きを読む
第三の手記 12 2025年9月21日2025年7月9日 by NMz 「いいかい? 煙草は?」 と自分は、首を傾けてたずねました。 「トラ。」 と堀木は、即座に答えました。悲劇――トラジディの略です。 「薬は?」 「粉か? 丸薬か?」 「注射。」 「トラ。」 「そうかな。 … 続きを読む
第三の手記 11 2025年9月21日2025年7月9日 by NMz 堀木と自分。 互いに軽蔑しあいながら付き合って、そうして、おのおのをくだらなくしてゆく。 もし、それがこの世に於ける所謂――交友、というものの実相であるならば、 自分と堀木との交情も、まさしくその「交友」の範疇に属し … 続きを読む
第三の手記 10 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz バアの向いに、小さい煙草屋がありました。 その店の、十七、八の娘でした。 ヨシちゃんと言いました。 色が白く、八重歯がありました。 自分が煙草を買いに行くたびに、笑いながら注意するのです。 「なぜ、いけないんだ。どう … 続きを読む
第三の手記 9 2025年9月21日2025年7月8日 by NMz そうは申せ、やはり人間というものが、まだまだ自分にはこわろしかったのです。 お店のお客と顔を合わせるにも、まずコップ一杯の酒をぐいとあおってからでなければ、どうにも腰が上がりませんでした。 こわいもの見たさ、というの … 続きを読む
第三の手記 8 2025年9月21日2025年7月7日 by NMz ドアを、ほんの少しだけ開けて、中をのぞいて見ました。 白兎の子が、いました。 ぴょんぴょんと跳ねまわっていました。狭い部屋の中を、くるくる、輪を描くように。親子は、それを追っていました。楽しそうに。静かに。幸福そう … 続きを読む
第三の手記 7 2025年9月21日2025年7月7日 by NMz けれども、その時以来、自分は妙な考えを持つようになりました。 世間とは、個人ではないか。 つまり、自分のような人間の、ただの寄せ集めではないのかと。 そう思うようになったのです。 そして、それを思いはじめてから、自 … 続きを読む
第三の手記 6 2025年9月21日2025年7月6日 by NMz お父ちゃん。お祈りをすると、神様が何でも下さるって、ほんとう? 自分こそ、そのお祈りをしたいと思いました。 ああ、われに冷き意志を与え給え。われに、「人間」の本質を知らしめ給え。 人が人を押しのけても、罪ならずや … 続きを読む
第三の手記 5 2025年9月21日2025年7月6日 by NMz はじめて、男妾のような生活を送りました。 シヅ子。雑誌社に勤めている女記者でした。 その彼女が新宿の職場へ出かけているあいだ、自分は五つになる女の子、シゲ子と二人きりで留守番をしていました。 それまでは、母親のいない … 続きを読む
第三の手記 4 2025年9月21日2025年7月5日 by NMz 堀木は、在宅でした。 汚い露路の奥の、二階建て。 堀木は、二階の六畳ひと間だけを使っていて、 下では、老父母と若い職人とが三人で、 下駄の鼻緒を縫ったり、叩いたり、静かに製造していました。 その日、堀木は、自分にとっ … 続きを読む