第二の手記 7

 淫売婦というものが、自分には、どうしても人間に見えなかった。 女でもなかった。 白痴のように。 あるいは、発狂した生きもののようにしか見えなかった。 けれども、その懐の中では、かえって、まったく安んじることができました … 続きを読む

第二の手記 6

 美術学校に、はいりたかったのです。  けれど、それは、自分の胸の中で、  ただ、ひそやかに燃えていた希望に過ぎず、  声にして言ったことも、ありませんでした。  父が、許さなかったのです。  父は、自分を官吏にしたいと … 続きを読む

第二の手記 5

 けれども、まだ、その時点では――  竹一の口から出た「惚れられる」というお世辞は、まったく実現しておりませんでした。  つまり、自分は。  東北のハロルド・ロイド、でしかなかったのでした。  あの戯けた予言が、ぞっとす … 続きを読む

第二の手記 4

 女は、男よりも更に、道化には、くつろぐようでした。  自分がお道化を演じますと。  男は、さすがに、いつまでもゲラゲラ笑ってはおりませんし。  それに、自分も、男のひとに対して。  調子に乗って、お道化を演じすぎると、 … 続きを読む

第二の手記 3

 その家には、三人だけの家族が暮しておりました。  五十をすぎた小母さん。  そして三十くらいの、眼鏡をかけて、どこか病身らしい、背の高い姉娘。  この人は、いちど他所へ嫁に出て、それからまた家に戻ってきた人で。  自分 … 続きを読む

第二の手記 2

 自分の――人間恐怖。  それは、以前にもまさって――  なお一層、烈しく。胸の底で、蠕動しつづけておりました。  けれど。  演技は、まるで解き放たれたかのように。  のびのびとして来たのであります。  教室にあっては … 続きを読む

第二の手記 1

 海の、波打際。  そうは言ってもいいくらいに、海に近い岸辺に――  真黒い樹肌の山桜が、かなり大きいの、二十本以上も立ち並び。  新学年が始まると、山桜は、褐色の、ねばっこいような嫩葉とともに、  青い海を背景にして、 … 続きを読む

第一の手記 5

 ――お茶目。  自分は、いわゆる「お茶目」に見られることに、見事、成功しました。  尊敬されることから、そっと、のがれることにも――成功しました。  通信簿は、全学科とも十点――けれども、「操行」だけは七点だったり、六 … 続きを読む

第一の手記 4

 けれども、――ああ、学校。  そこでも、自分は、――また、尊敬されかけていたのです。  それが、恐ろしかった。  ――たまらなく、怖ろしかった。  尊敬――  その言葉には、いつも、震えがありました。  自分の定義では … 続きを読む

第一の手記 3

 自分の父は、東京に用事の多い人でした。  ――上野の桜木町に別荘を持ち、月の大半をそこで暮らしていたのです。  そうして帰郷のたびには、家族はもとより、親戚の者にまで、実におびただしい土産を買って来ました。  ――それ … 続きを読む