川辺に映る星の名

「こんばんは」ジョバンニが声をかけると、白い太いズボンをはいた人がすぐに出てきた。 「はい。何か御用ですか」 「今日、牛乳が届きませんでした」 「ああ、申し訳ない。うっかりして、柵を開けたままにしてしまってね。牛が親牛の … 続きを読む

銀河のほとりで

「ハルレヤ、ハルレヤ。」明るく、楽しい声が響く。空のかなた、冷たい高みから、澄んだラッパの音が細く流れてくる。 汽車はたくさんの信号や灯りの中を通り抜け、十字架の正面で、ゆっくりと止まった。 「さあ、下りましょう。」青年 … 続きを読む

星と蠍の火

 向こうとこちらの岸に、星の形とつるはしを描いた旗が立っていた。「ねえ、あれは何の旗だろう。」ジョバンニが、やっと口を開いた。「さあ、わからないよ。地図にも載ってないもの。鉄の舟が置いてあるね。」「ああ。」「橋を架ける場 … 続きを読む

静けさの高原にて

青白い文字盤が、黙って「第二時」を示していた。その振り子が、風のない静けさの中、かち、かち、と野原に刻む音だけが響いている。汽車も止まり、草の葉すら動かない。すべてが、透明な沈黙の中にあった。 その静寂を、かすかに破るも … 続きを読む

神の召しにこたえて

 「まあ、あの鳥……からすかしら」  少女の声が、そっと車窓の外へ流れた。  「からすじゃないよ。みんな、かささぎさ」  カムパネルラが、静かに言い直す。その言い方に、叱るような色が混じっていて、ジョバンニは思わず笑った … 続きを読む

燐光の川辺にて

 ごとごとと音をたてながら、汽車は燐光の川辺を走っていた。 川の水面はきらきらと揺れ、向こうの窓には野原が広がっていた。  それは幻燈のようだった。 百も千もの三角標が、大きさもさまざまに、野の上に立っていた。 大きなも … 続きを読む

天の舟――白靴の姉弟

 「あら、ここ……どこかしら。まあ、なんて、きれい」  少女の声が、静かに車窓の光にとけた。 黒い外套をまとった十二歳ほどの少女が、茶色い瞳を丸くして青年の腕にすがりつき、車窓の外をじっと見つめている。  「ランカシャー … 続きを読む

天の川の観測所

 「もうここらは白鳥区のおしまいです。 ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です」  窓の向こうに、光の川が流れていた。 夜空に咲いた火の花のように、あまの川は輝き、静かにきらめいていた。  その中心に、黒い建物 … 続きを読む

鳥を捕る人

 「ここへかけてもようございますか」  背後から聞こえたその声は、ざらついた質感のなかに、どこか人懐こさを帯びていた。  振り返ると、赤い髭の男がいた。 茶色の外套は擦り切れており、白布に包んだ荷物をふたつ、肩にかけてい … 続きを読む

北十字とプリオシン海岸

 「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか」  カムパネルラが、ためらいながらも急いで言った。 その声は震えていた。  ジョバンニは黙って遠くの橙色の三角標を見つめた。 その先に、母がいる気がした。 あの小さな光の … 続きを読む